紆余曲折の末、

一瞬だけ通りかかった路地裏で看板がギラギラ輝いていた

タイ古式マッサージの店に決定。


入店して目に飛び込んできたのが、

アイロンをかけているおばちゃんと、ソファでくつろぐネイティブ風女性。


「ぃらしゃぃませぇ」 「どぞオハイリくだそい」


これがタイ本国旅行中だったら

一目散にトンズラぶっこいただしょう。

あちらの国で日本語がカタコトの場合、

8割ボッタクリ、ないしは怖い目に遭うでしょうから。


ここは横浜関内。

警戒はしつつ、入店しました。


客は我ら2人のみ。

繁盛しとらんがな。


いや、隠れ家的なアレだろう。

アド街が目をつけているはず。

いまいち前向きに捉えられないまま、ソファに腰掛ける。


緑茶でもジャスミンでもない、

透き通ったお茶色のお茶を出され、

すすっていると、ボス風のオバハンが

アイロンをかけたまま話しかけてくる。

この飲料が睡眠薬でないことを祈りつつ。


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(タイ)「タイ古式は、ハジメテでゴザイマス候か?」




(日本)「えぇ。楽しみです」




(タイ)「どちらから、オミエになさったのでマスカ?」




(日本)「遠くからです」




(タイ)「あぁ、戸塚ね」




(日本)「・・・・・」


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さすが横浜関内クオリティ。

戸塚だけは明瞭な発音。

だが残念ながら聞き間違いだ。



カウンセリングシートを記入。

しかし凝っている部位と強さを聞くだけで

タイ古式らしさは少しもない。

むしろカウンセリングシートが

90年代初期~後期に学校で使用されていた

ざらっざらの紙質だったところに

「ここにタイ古式か」とアジアの神秘を感じる。


どこから出てきたのか分からない、

そして男か女か分からない短髪のスタッフと

ソファでくつろいでいたヤンママ風のスタッフに

施術されることになったようだ。



真っ暗の個室で

「ケガエテくだそぃ」と言われ、

ハンガーにかかっていたコットンのイージーパンツと

分厚い生地のTシャツを着る。



なお、あの分厚い生地のTシャツは

ヘインズやグッドウェアーなんかよりも

はるかに縫製がしっかりしていた。



ここで補足しておくが、

個室といっても

いわば「ダブル」の部屋。布団が二つ並び、

お互いの悶絶を聞きながら

施術を受けなければならなくなった。



結構でかい声で

「いてー」とか「ぐえー」とか言おうかと思ったが、

本能むき出しの声を聞かれるのは

やはり恥ずかしいので控えることにした。


・・・・


はじまるやいなや、

カーテンで仕切られた外部から

また別のネイティブ女性が話しかけてくる。現地語で。


「メィタンラ チャモネ ケニャン?」


「マィコンタワ ナエ ワォサゥン」


みたいなやりとりを施術中の女性2人にしてくるのである。

クスクス笑い続ける3人。


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「こいつらきっとタまってるぜ」



「ストレス?」



「いやいや 金だ金 たんまりまきあげてやろうぜ」



「いいね。まきあげたらメコン川に捨ててしまえ」



「ナイスグリーンカレー」



「ナイスムエタイ」



「ワッハッハ」



「まきあげた金できょうはスキヤキね」


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のような会話を繰り広げているのだろう。


困った・・。

横浜関内は港町。メコン川なんて船であっという間だ。

お塩学ぶんとこのムスコがどんな犯罪犯すか

見届けぬ間に死ぬなんて残念だなぁと思っていると、


「ハイ、オワリマスタヨ」


あれ?

死んでない。


むしろ体が大分軽い。


そうか、あの現地語の会話は

イージーリスニングか子守唄なのだろう。


終わったあとのこの爽快感。


คมนาคม ยันไม่กลับดอนเมือง


タイで幼稚園を開いている

とあるおっさんを知っていますが。

ろくな奴ではありません。


でもタイ古式マッサージは認める。